風のテラスがすき

てきとーにいきてみたいな。のんびりと。でも、そうもいかないか。

意外な結末がまっていたサボリズム

仕事をサボりたくなったのではなくて、私の何かが壊れている。

 

気がつけば東海道線の下りに乗っていた。

 

東京に帰る気にもならず、寿司屋で知り合った見知らぬオヤジ達と酒を飲んでしまったから、レンタカーは無理だ。

 

温泉に行こうと思い先輩が経営する旅館に電話したら「お、おいでよ」と言われ行くことにした。

 

着替えもあるけど、サンダルで行ける旅館ではない。

 

まあ、いいか?

 

熱海まで戻り、修善寺駅からバスで向かう。

 

すると浮世離れした旅館の門が見えた。

 

しばらく、門を眺めていたら番頭さんが出てきた。

 

「ご無沙汰しております」

「あ、軽装で申し訳ありません」

「いえいえ、どうぞこちらへ」

 

サンダルを脱ぎサロンに通された。

 

目の前に広がるのは池!

鯉が元気に泳いでいる。

 

水が濁っているから夏だ。

水が透き通ると秋になる。

 

風邪の向こうには竹林が広がり

竹の擦れる音が、私の心のざわめきを

打ち消すかの如く鳴り響く。

 

「やあ、久しぶり」

「すいません。突然お電話いたしまして」

「いつでもどーぞ。珍しいじゃないか平日に」

「仕事やる気でなくて、サボってきました」

「たまには、サボりましょう。なんか言われたら、俺が局長に電話するよ」

「心強いお言葉に安堵いたしました」

「まあ、コーヒー飲みながら、最近の江戸の話を聞こうか」

 

相変わらずの浮世離れした若旦那だ。

 

会社の出来事をはなし、旅館の経営状況を聞いた。

驚いた。

 

「うちは全く影響ない。逆にみんな避難してきた」

 

「中居さん達は嫌がらなかったのですか?」

「嫌だという人には暇を与えた。客間から帰る時には必ずうがい。手洗いも頻繁にさせたから、感染者0」

 

「あの、何かやったことはやるのですか?」

「特になにもしてないけど、今なら予約取れるとくる一見さんは、丁寧にお断りした。常連さんなら、感染リスクを説明して受け入れたよ」

 

部屋に案内すると言われ、案内されたのは能舞台が見える特上の部屋だった。

 

椅子に座り能舞台と池を眺める。滝の落ちる水しぶきを見ながら、時はゆっくりと進んでいった。

 

風呂に行くか!

浴衣に着替えて、母に向かう。

 

誰もいない。

この貸切感がたまらない。

 

風呂から上がり、丁場にかき氷を頼んだ。

 

風呂上りのかき氷に、なぜかシャンパンがついた。

 

明日も泊まろうかな?

 

そう思っていると

 

「あ!おねーちゃん」

振り向くとそこに鮨屋で知り合ったおっさん達がいる。

 

「なんでここに?」

「そりやわしらのセリフじゃ」

「飯を一緒に食べるか?」

「いや、ご迷惑でしょうから、、、」

「なに言うてますの?あんたが俺らのゲストや」

 

というわけで、

部屋で優雅に能舞台を眺めながらの食事から、おっさん達の臨時コンパニオンになった。

 

なんでこうなるの?

神様、私なにか悪いことしてますか?

 

してるよな!

サボってるよね。

 

明日は休暇申請しよう。

 

部屋に戻り、中居さんから宴会場を案内された。

 

そこにいたのおっさん達!

 

ビールの乾杯から始まり名刺を交換した。

さすがだよ、浴衣でも名刺入れ待ってきたおっさん達は、宴会慣れしている。

 

「あ、なんで?ねーちゃんはサボったんやったかな?」

 

「仕事やる気なくて」

「わしらもな、コロナでやられ倒産の危機じゃ」

「繊維は大変です?」

「取引先がやばいからな」

「ならば、小さくアパレルブランド作りますか?」

「あほ!そんな簡単に行くか」

「でも、デザイナーもパタンナーも暇してる人たくさんいますよ」

「どんなやって探す?」

「簡単ですよ、SNSで見つければ」

「さがしてみい」

 

宴会で酒飲みながら探すと出てきた。

 

今までの、デザインした服の写メ送ってとメールすると来たのが三名。

 

「ほら、いるじゃない」

「これ売れるのか?」

「この子はいけると思う」

「この子に会ってみるか?」

 

中居さんにホワイトボードを用意させ、ブワランナーを借りた。

 

ホワイトパードに貼り付けながら、おっさんは孫にメールする。

 

「欲しいというな」

「誰が?」

「孫じゃ」

 

明後日、うちの会社に来てくれ。

 

え?マジ?

 

このおっさん、判断早すぎる。

大丈夫か?

 

サボりが仕事になった。