母が脳梗塞で倒れてから、仕事の進め方も変わってきた。
自分が社長である以上、社員に対する責任は当然として、クライアントに対する責任も果たさなければならない。
小さいながら会社の社長の責任を全うするには、家族が安定して生活していなけらばできない。わかっていたが、実際に厄介なのは、子供の私ではなく残された老人なのだ。
まず、私にかけてくる電話の回数は1日30回以上だった。
一人になる恐怖とはこんなに人間を悲惨にさせるものだろうか?
所詮、人間は一人だ。
甘ったれるのもいい加減にしてほしい。
流石に堪忍袋の尾が切れた。
実家に帰り父に「いい加減にしろ」と怒鳴りつけてやった。
広告会社時代に痴呆症の疑いのある老人の接し方の講習を受けた。
怒鳴ってはいけない。
だけど限界だった。
「俺のキャッシュカードがなくなった」
キャッシュカードは磁気テープが破損して再発行した。
だから、当然ないのだ。
「再発行手続きをしたよね」
「なんだそれ」
これを丁寧に説明する。実に5回も説明してノートに書かせて覚えさせる。
だけど、同じ内容の電話がかかってくる。
兄はそう簡単に帰ってこれない。
「同じことを説明したよね。何回も同じことで電話しないように、ノートに書いたよね」
「あ、そうか。ノートに書いたな」
これが痴呆症なのか?それとも、なんなのか?
父に向かって「いい加減にしろ。ぼけ!!!!人間は所詮一人で生きるんだよ」と怒鳴りつけてやった。
娘に怒鳴られる。
父は床に座り込んだ。
「お母さんが病院で病気と戦っているときに、お父さんはただのガキでいいのか」
16時だけど、風呂に入らせ、寝かせた。
どうやら寝ていないみたいだ。
老人を寝かせてから、仕事をした。
晩御飯も簡単に作った。
実家から出てスーパーに向かい食材を買って帰ってきた。
玄関を開けるとそこにいたのは、父が座ってた。
「何しているの」
「誰もいないから、玄関で待っていた」
「寝てなさい」
食事を作り、食べさせて父は泣き出すのだ。
「一人では生きていけないから、施設に入ろうね。市役所に手続きしてくるから」
と言って高齢福祉を担当する部署に行った。
驚くことに行列ができていた。
この国の老人対策はどうなっているのだろうか?
福祉国家ではな日本。
公的年金に限界がある日本国。
となると、自宅を売却して老人を施設に入れる必要がある。
なので、兄と協議が必要だ。
このままでは、どうにもならない。
兄にメールを長々と書いて送った。
これ以上はできませんと書いておいた。
明日は仕事に向かう。久々のオフィスだな。